福島ゲームジャム2016参加レポート〜ゲーム翻訳屋の無謀な挑戦〜
ゲーム開発者じゃないのにゲームジャムに参加してきました
ゲームジャムとは、限られた時間内に、はじめて会った人々と即興でゲームを作るイベントです。
今回参加したのは7月30日~31日の二日間にわたって開催された福島ゲームジャム2016。
福島GameJam 2016 | Fukushima Game Jam 2016 Official site
東日本大震災で被災した福島のIT・ゲーム教育を盛り上げるために2011年以降、毎年開催されています。福島以外にも分会場があり、わたしは東京・武蔵境にある分会場、コワーキングスペース「ぴこす」から参加しました。
開始から約3、4時間で企画発表、さらに6時間後には「動くもの発表」、そして30時間後に完成品発表、と過密スケジュールでしたが、プログラマー多めのメンバーに恵まれ、なんだかカッコイイ(←自画自賛)ゲームを製作できました。
『Footsteps in the Dark』
<ゲーム紹介ページ>
ゲーム翻訳屋の無謀な挑戦
私はかれこれ5年ほどゲームやIT分野を主戦場とする翻訳会社で働いてきました。しかしプロと言えるのは日英翻訳・英日翻訳においてだけ。ゲームジャムに興味はあっても、自分には無理だろうと思っていました。そもそも参加条件には「ゲーム制作経験者のみ」と明記されています。
ところが、福島ゲームジャムの運営の方から「国際的なイベントだから何か役割はあるはず!」と声をかけられ、事前に問い合わせた「ぴこす」会場の星山さんにも「プログラマー以外は協調性さえあればなんとかなる」と背中を押してもらい、やってみることにしました。
参加の準備(予習編)~どんな風に進むの?~
まずはゲームジャムで何が起こるのか、どんなもの・ことを準備していくべきか、以下の様なスライドや参加記事をネットで探して予習しました。
参加の準備(PC編)~多めにアプリケーションを用意~
福島ゲームジャムの公式サイトで指定されていた推奨アプリケーションに加え、初心者でもなんとか使えそうなゲーム制作ツールをインストールしておきました。
今回は経験者がたくさんいたのでUnityで開発しましたが、万が一技術のある人がいなくて困った場合も想定し、ノベルゲーム制作ツールのTyranoBuilder、 ドット絵ゲーム制作ツールのPico-8、友人から使い易さをおすすめされた2Dゲーム制作ツールのGameMakerをPCにインストールしておきました。プログラミングで貢献できない人は、あればAdobe系のソフトも入れておいた方がいいですね。
<反省点>
絵や音楽が作れず、プログラミングが分からない人でも出来ることの一つに「ゲームの写真や動画を録画、編集して公開する」広報タスクがありました。
そのため会場でロイロ ゲーム レコーダーをダウンロードしてゲーム動画を作成しましたが、チュートリアルを見ながらオタオタと作成してYouTubeにアップしたので、ミスもありました。事前に用意・練習しておけばよかったです。
参加の準備(PC以外の持ち物編)
自己紹介をスムーズに
自分はゲームジャム参加者として謎な存在ですが、時間をかけて知ってもらうわけにもいきません。仕事の経験以外にも、たまたま役立つ趣味志向や知識があるかもしれないので、好きなもの、最近ハマっているもの、性格など含めて事前に自己紹介ツールの「自分マトリックス」を書いていきました。
発想のヒントアイテム
お泊りグッズやPC以外にも、発想のきっかけになりそうなものを持参しました
-色々な言葉が書いてあるチップを使って連想を楽しむアナログゲーム「想像と言葉」(想像と言葉 — Medium)
-キャラクターやモンスターを考えることもあるかもしれないので、先日江戸東京博物館の大妖怪展で買った様々な妖怪グッズ
-パラパラめくっているうちに何かを思いつきそうな、トピック別(感情、体の部分、食べ物など)英語表現集
大量の付箋を持ってきてくれた参加者もいました。これもアイデア出しや進捗管理にあると便利なアイテムです。
当日編
メンバー紹介
空気が最初から微妙だったらどうしよう!そもそもわたしお邪魔かもしれないし!と思いましたが、暖かく迎え入れてもらいホッとしました。
メンバーは、プログラマー3名、プログラミングとサウンド出来る方1名、プランニングとプログラミング両方経験を積まれてるベテランの方1名でした。
アイデア出し
福島ゲームジャム2016のテーマは「Distance」。まずはテーマから思いつくキーワードを全員で付箋に書き出します。ここで「想像と言葉」がとても役立ちました。付箋で出てきたキーワードと言葉チップを更に組み合わせてイメージをふくらませました。
(画像: 連想キーワードを書いた付箋と「想像と言葉」のチップ)
- 「未来」と「距離」で「時間的距離」→未来の自分になんらかの影響を与えられる
- 「物理的距離」「遠くが見えない」→「暗闇」
- 「暗闇の中で足跡が光る」
- 「自分は死んでも足跡が残る」
- 「足跡を未来の自分に残す」
(一枚目は「暗闇の中で光る足跡がつく」案が出たときの付箋、二枚目はわたしが「先が見えない中でソナーのようなものを出して進む」と書いた付箋です)
こんな風にアイデアを起こしていき、ゲームの内容がまとまりました:
- 視界の限られた暗闇の中を進むパズルアクションゲーム
- 一度ダメージを受けるとスタート地点に戻ってしまう
- ダメージを受けても自分の光る足跡が残っているので、それを道標に出口を目指す
せめて数だけでもアイデアを出そうと思っていたため、いくつかの要素が採用されてうれしかったです!
ゲームジャム経験者たちは手も話も早い
経験者が多かったせいか、あっという間にチームコラボレーション用のSlack、Googleドライブ、Bitbucket、SourceTreeなど開発環境が整備されていきました。頼もしいパイセンたちが「Git、名前は聞いたことあるバブー…」という赤ちゃんレベルの私にも色々教えてくれました。
他の人たちがプログラミングに集中できるように文書づくりや発表を担当
福島ゲームジャムは、30時間のあいだに発表が計4回、ゲーム紹介ページの作成と随時更新、プロモーション用の画像・動画作成などの広報タスクがあったので、プログラミングやデザインができなくてもそれなりにやることはありました。
Slackでの報告を受けて、タスクを管理するスプレッドシートに記入したり、テキストだけで作れるような「遊び方」ページや「スタッフクレジット」ページを作成したり、実装には間に合いませんでしたが、仕様をもとに「主人公は死んだ魂で輪廻転生をする途中」「このダンジョンは黄泉の国」など、ストーリー要素を考えてみたり……。
最後にはゲーム紹介ページやゲーム内テキストを全て日英バイリンガルにし、完成品発表プレゼンも二ヶ国語で行いました(面目躍如!)。
何も出来ないことを懸念していましたが、経験者の方々いわく「制作経験があっても仕事を探したり協調したりするのに慣れてない人もいる。とにかく積極的に仕事を探す姿勢が大事」とのことでした。
ゲーム翻訳者がゲームジャムに参加する意義
ゲーム開発会社はゲーム翻訳を外部の翻訳会社やフリーランサーに業務委託することが多く、翻訳者がゲーム開発の内部過程に関わる機会は限られています。
失敗や挑戦が許されるゲームジャムを通して開発の流れをひととおり体験出来る機会は、我々にとっても貴重な体験なのです。
また、翻訳自体が人文的なスキルであり、芸術家肌の人はそれゆえ束縛を嫌うこともあるせいか、ゲーム翻訳者の間では、ちょっとしたExcelの関数や*1、慣れれば便利なツール、プロジェクト管理の新しい知見などを導入するのがむずかしいことがあります。
そんな中、ゲームジャム参加者たちの仕事の進め方、コラボレーションの仕方から学ぶところは多くあります。
特にわたしは複数の在宅翻訳者に仕事を発注して進捗管理するマネージメント的な仕事もしているので、大変刺激的でした。
最後に
色々書きましたが、楽しかったけど、もし次回参加することがあれば、やっぱりもう少し勉強してから行きたいなとも思います。
他のゲームジャムでは2~3人チームのこともあると聞きます。経験に自信がない人は、過去のイベントの記録を参考に、ある程度人数が多くなりそうなイベントや会場に参加するのがおすすめです。
スキルのない私が今回楽しくゲームジャムに参加出来たのは、腕もあり、精神的余裕があり、ゲームジャムにも慣れているメンバーに恵まれたことも大きいと思うからです。
チームメンバーの皆さん、本当にありがとうございました。