今日も生きてる

やっぱムーアは同時代作家の中で最高の天才


予告してたBowling for Columbineハイライト感想アップするだ。
二日前のつづきね。

やっぱりマイケル・ムーアは、私が生きているこの時代、この世界の作家の中で、最高の天才だと思った。私にとってはね。打ちのめされた。

「我々の仕事は国民を守る為のもので、けして突発的な怒りの元に他国を攻撃するために兵器を生産しているわけではありません」

って兵器会社の人が言った後のアメリカの史上爆撃映像連投、BGMはLouis ArmstrongのWhat a wonderful worldという構成!マイケル・ムーアの異常才能ほんとヤバイ。

エンディングもやっぱりロックヴァージョンのWhat a Wonderful World(誰のカヴァーかは知らん)で、911でもそうだったけど、この人の音楽の使い方、特にアメリカの誰もが知ってる曲を批判として使う時の破壊力がすごい。911の兵士の駐屯地シーンであの「Burn, Motherfucker, Burn, Burn」ていうのとか。


あとやっぱりインタビューね。以下ム=ムーアで。

ム「(事件の起きた)リトルトンで育ち、コロンバイン高校に通ったマットと彼の友人トレイは、街への怒りや*違和感*1をぶつける方法を発見。大量殺人ではなくアニメに。」<<
といって始まる、サウスパーク作者のマット・ストーンのインタビュー。


これ、かなり泣きそう方面でグっとくる。だってサウスパークの作者が、こんなこと言うんだよ?

マット:
「7年生でこの単位をとらなければ、8年生の時この数学がとれません。そうすると9年生に進級出来ません、あなたはもう終わりです、とか信じ込まさせられて、学校で一回ヘマした奴はその後の一生ずっとダメって、あの時は本気で思わされてたんだ。
もう一生このままなんだと思ったら、誰だって何もかもどうでもよくなるに決まってる。
それがまったくのデタラメだってことを学校は教えてくれなかった。そういうことは人から人へと教わるんだ。そういうことを教えてくれる人との繋がりがあったら、こんなことは起こらなかったかもしれないね」


・犯人が聴いていたというだけで、もっとも非難されたマリリン・マンソン(以下マ)のインタビュー。

マ「それくらいの時の俺にとっては音楽こそが救いだった。レコードは俺に『そんな服を着てたらお前はダメ人間だ』なんて言わないからね。」
マ「でも俺をやり玉にあげたい気持ちもわかる。そうすれば簡単だから。」

ム「あの事件の日、米国がコソヴォで大量虐殺を行ったことについては?」
マ「ああ知ってる。まったく皮肉だよ。米国は海外にまでいって爆弾を落としてるのに。悪者は俺さ。ロックを歌ってるから。言いたい事を言ってるから。でも影響力はどっちが強い?むしろ俺の方だって言いたい所だけど、俺は大統領の比じゃないはずだ。」

マ「大統領のせいで事件が起きたとは誰も言わない。メディアの望む恐怖の生産法と違うからだ。恐怖で消費を促すというのは米国資本経済の根幹なんだ。そんな臭い息じゃダメだからこのハミガキを使いなさい。肌にニキビがあったら女の子とヤレないからこの薬を買いなさいという風にね」


最後ムーアに「コロンバインの人達と直接話す機会があったらなんと言う?」と聞かれて、

マ「I wouldn't say anything. I would listen to what they have to say, and that's what no one did.」

って言ったの、
「ただ黙って彼等の話を聞くさ。それが大事だ。」としか訳されてなかったけど、言葉を補って意訳すれば、
「ただ黙って彼等が言わずにはいられないことを聞くさ。(それが大事なのに、今まで)誰もそうして来なかったからね」という意味なのな。


マリリン・マンソンこそが、この映画に出てくる人の中で、最高に知的で真摯で紳士で人間出来ててっていうのは本当印象的で、最強の批判である。
あの見かけなのに、実際はダラッと座ってるのに、誰よりも背筋がまっすぐで、いい男に見えました。これがロックの人だねえりかさん(丁度えりかさんが山崎洋一郎崇拝とロックの定義の話してたから振るよ)(前日日記でえりかさんのコメント、「(私と似すぎていて)血が繋がってるんじゃないかと思った」に爆笑した。それ紹介文に書いてよ)


・年間銃殺事件数:
ドイツ381 フランス255 カナダ165 イギリス68 オーストラリア65 日本39
アメリカ1万1127

知っててもこうやって数字改めて出されるとドン引きしたー。


・そんで911直後の恐慌状態のアメリカシーン、何回も言ってるけど、リアルタイムでそこにいたのでヒシヒシと怖い。


・特典の監督インタビュー。
180数名の死者を出したテロ事件の元容疑者(証拠不十分で釈放)の自宅にいって、彼が護身用に持っている銃を見せて貰うシーンについて、

「僕だって本当は怖い。あの男の部屋に入るシーンで僕は固まってただろう。彼が銃をふりかざす度に生きた心地がしなかった。」

「彼は僕と同じ学年で、同じ高校にいって、同じ程度の教育を受けてきたはずなのに、『暴力なしでも政治的な革命を起こせるのでは?』という話をしたら、ガンジーの非暴力運動も知らなかったんだ。信じられないだろ。恐怖だよ」

(↑でもこのシーンの彼も映画では超普通である)

「13歳のとき、あれは4月4日のことだ。僕は教会のミサから出て来た所で、ラジオを聞いた男が叫んだ『キング牧師が殺されたぞ!』そしたら大歓声が聞こえた。黒人の指導者が殺されたってのに、教会の前で白人たちが歓声をあげたんだ。ショックで忘れられないね。高校の時はベトナム反戦運動をしたし、そんな風にして僕の社会に対する怒りは山積みされていった」


「子供のころから、こんな社会に住むのはまっぴらだと思ってた。絶対自分の手で変えてみせると思ってたんだ。」


「そして実際に自分の作った番組や映画や本で様々な問題が好転するのをみてきた」
「カメラは正義の武器さ。だが同時にユーモアにも驚くほど大きな影響力がある。僕のよく引用するマーク・トウェインの言葉がある。『笑いという攻撃には誰もが屈する』僕はその言葉が本当に好きだ。」


笑いは世界を救う!ってわたしも前日記で書いてたし、こういう精神が最高に好きなんだよね。

「僕の事を批判する人はよく、真実を編集で歪曲してるとか、人を困らせるような質問をしていてイジメだとか言うけど、発言は全て本人のものだし、僕の用意したセリフなんてない。僕は誰に対しても公平に、意見を主張させる機会を与え、それを録るだけだ。たとえ個人的には最悪だと思っている人物に対しても、扱いには敬意を払っている。」


どんなキッツイ相手でも、どんなにキッツイ質問でも、ニュートラルな様子を崩さず、戦う相手でも公正さを見失わないムーアさん。その天才的な構成力以上に、いち人間、いち作家としての志の高さ、心の強さに最敬礼。ていうかほんっと毒舌って心の強さと勇気の勲章だと思う。

*1:単に「違和感」と訳されてるけど、その直前マットが「コロンバインは苦痛だった。ダッサイ街のダッサイ高校さ。」と言ったセリフと合わせると、英語で「being different in Littleton」と言った響きが格段に重い