今日も生きてる

志らく一門会(第85回)

平成18年7月17日 於:上野広小路亭

ーお番組ー
立川志ら乃 オープニングトーク
チャレンジコーナーIV
「師匠からの宿題II」

(5点満点中、らく次さん4点・らく八さん2点・こらくさん2点)
<お仲入り>
立川らく太 『高砂や』
B&β改めベイビーズ(立川らくB立川志らべ) 漫才
立川志らく 『ねずみ』


・あたしのばかばかばかばかばかばかーー。
昼の落語会からあんまり時間があったので、あっちへブラブラこっちへブラブラ。最終的に新宿紀伊国屋で落語関連品を一気買い。その足でDVDプレイヤーのある漫画喫茶に入り、『古典落語名作選』というDVDシリーズに入ってる三代目金馬『薮入り』を鑑賞。笑いをこらえ、ほろりと一泣きしてから睡魔が襲って来てお昼寝。


はたと気が付いたら18時、志らく一門会の開演は上野で18:30。全然間に合わず、らく次さん『初天神』で「ねえおとっつぁん、あたい今日は何にもねだらなくていい子だろ?いい子だろ?いい子だろ?だからご褒美になんか買っておくれ」あたりから。最初からいた友達に、「むしろあの下りまでの最初の方がすごい面白かったのにー!」と言われ、ショック。


・今日の一門会は総じて試練の会でした。いつもはたとえチャレンジコーナーがお説教モードになっても、仲入り後はまた盛り上がるんですけどね・・・今日は志らく師匠のトリまで持ち直し切れなかった感があります。


・けしてらく太さんとらくB志らべコンビが単体で見てそこまでひどかったわけじゃなく、特にらく太さんなんかはいつもよりとっても安定感があってようやくホッと一息出来たんですけど、いつにもまして苦みばしったチャレンジコーナーの後味を一掃出来るほどのインパクト足り得ませんでした。


・そして漫才が・・それなりに面白かったんですけど、台本の面白さで何とか持っているという感じで、これも何か締まりがないと言うか、二人がまだかみ合ってないというか、最後もグダグダとなし崩し的に終わってしまい、なんともはや、お客が不安になるような感じ。


ちなみにあの衣装はどーなのかなぁ・・。らくBさんがかっちりスーツで、志らべさんが「洗濯に失敗したのか?」というようなしわくちゃのTシャツにハーフパンツ・・・。まるでトム・ハンクスの『ビッグ』みたいに「10歳の男の子が突然朝起きたら30歳になってて服着てみるとつんつるてん」なんというイメージを彷彿。小学生が大人の着ぐるみに入ってるみたいな。狙ってチグハグなのは判るし、やっぱり出て来たときは笑ったけど、漫才が始まってからは悪い意味で気になってコンビの噛み合なささの方を強調していた気がする。


このコンビは7/21のいきいき前座ライブのために結成されたコンビ、仲間うちでは「らくBツッコミ・らく八ボケの方が面白いんじゃ?」という話もでたり。らくBさんは常識人キャラよりも、もはや『ドS』という域のキャラで辛辣なツッコミを入れた方が面白みがマシッソヨ。らくBのBはブラックのB、持ち前の黒さをもっと生かして欲しい。


・総評中の志らく師匠曰く、
「弟子の落語に当たってぐったりしてしまいました。私はまだ袖にいるからいい。これを正面から受け止めてくれるなんて、ここのお客様は優しいですよ。談志ひとり会の前座だったらお客が皆ロビーに出てた」
「これでも2000円だか1500円だかとってるんだろう?もし私が出てなかったらお賽銭みたいに15円とかでいいくらいだ。」


これはまあ冗談として言い過ぎだけど、弟子一人一人への講評はいつも実に公正で的確。字面で書くと辛辣だけど、志らくさんは何と言うか、とにかく落語への愛ありきで真摯なので、聞いてて嫌味じゃないし、素直に為になるお説教として、弟子への親心がちゃんと感じられる。志らくさんのツッコミがほとんどおおむね自分の「ああー!ここツッコミたい!」という感想でもあるので、アンケートに書くことがない位です。


・今日のチャレンジコーナー講評まとめ

  • らく次さん

師匠:「子供が苦手なのでこの噺の面白みが出せない」「登場人物がどんどんあわてていって上滑りしている」

    • 以前、らく次さんの『金明竹』を聞いたときに与太郎が20代後半〜30代にしか見えなくて、小僧というより、「たまのランニング」(本名・石川浩司)とか「裸の大将」みたいでした。だから今回の宿題は『初天神』と聞いて、「らく次さん、子供は苦手なんじゃないか・・」と懸念していたのですが、やっぱり苦手みたいです。
    • 前回のチャレンジらく次は「色気のある女」でしたが、その課題を見事に克服していく姿をここ3ヶ月の『野ざらし』『湯屋番』『転宅』などで見て来たので、これからまた一山越えてくれる事でしょう。これからかかるのは『初天神』『真田小僧』『桃太郎』とか?でもその「面白かった前半部分」が聞きたいのでまたどこかで、しかも他の立川流の人だと捕捉出来ないので一門関係の会で『初天神』かけて欲しいなあ。それ以降東京を一時離れるので8/25より前に(超自分の都合じゃん!)。
  • らく八さん

師匠:「落語の基礎体力が足らなくて最後はグダグダ」「演じ分けが出来てなくて同じ人が何人も出てくる」

    • でも、後半はともかくとして、いつものらく八さんに比べるとハッとするほど調子良くてびっくり。よく指摘される陰鬱さが晴れ、らく八さんの独特なふにゃふにゃした感じを朗らかさとしてとる事が出来た。「弁天様は女一人?よく間違えが起きねえな」と「べちゃべちゃしたごはんが嫌いなおひつでぇ」はグー。いつものことだがバネ人形のように揺れる首が気になる。まだ首がすわってないのか、という気さえする。
  • こらくさん

師匠:「苦手だからやらせたのに、都々逸や謎の掛け合いをはしょって、笑いのとれる茶屋の婆さんのシーンを長くした。10年やってるだけにそういうとこはズルくなってる」「酒の飲み方が落研以下」

    • 私はとにかく、あの声がだめだ・・・・。特に今日「イヒヒヒヒ」と笑ったのが薄気味悪くて本気でぞぞぞーっと引いてしまった。


・とっても書きにくーーい今日のアンケート、いっそこの前の志らくのピンみたいに各演目に点数つけるか、または進化した志らくさんの『ねずみ』についてだけ触れるか迷って、結局『ねずみ』の事だけ書いて出しました。この前のピンではネタおろしだったので、志らくさんの落語の中では物足りない出来でしたが、今回はすっかり大進化をとげて、楽しい楽しい<志らく落語>になっていました。志らくのピンも、一門会も、不動院も、志らくさんと志らく一門は本当にネタおろしから変わるのが面白い。


人情噺と滑稽話を行ったりきたりするメリハリのよさ。「20文くだせぇ」「そんな洒落はいかが?」「右甚三郎」など、かがやく名フレーズがネタおろしの3倍は増えてたんじゃなかろうか。特に、ねずみ屋の主人の身の上話を切々とした調子で聞かせて客の胸を熱くさせておいて、とんでもないくすぐりの冷水をひっかける、あの緊張と緩和には痺れた。志らくさんサイコー。あそこは本当にサイコー。それでこそ志らく落語の人情噺。おかしすぎて前に倒れ伏して笑った。


私はこの左甚五郎ものがどうも苦手で、『ねずみ』『抜け雀』『竹の水仙』、いままで一度も面白いと思った事がありませんでした。不愉快とまでは行かないのですが、『噺』が耳を通じて自分の中に入っても、そのままどこにも引っかからずに出て行ってしまうような。つまり、このシーンが好きとか、この人物が好きとか、このフレーズが好きとか、愛着やこだわりが持てなかったのです。しかしこの日の『ねずみ』でやっと登場人物たちの事を好きになれました。


志らくさんで聞かなかったら、こんなに好きになっていないだろう、っていう人達が増え続けて行きます。『愛宕山』の一八、『小言幸兵衛』の幸兵衛夫妻、『文七元結』の長兵衛親子や佐野槌の女将、『厩火事』のおさきさん、『庖丁』の三人・・・志らく師匠で聞くと、架空の登場人物たちに温かい血が流れ出し、息が吹き込まれる。魅力的な生身の人間のように、すっかり彼らに惚れ込んでしまい、そしてまた会いたくなってしまう。だから何度でも聞きたくなるし、何度会っても飽きないのだ。
一八さんなんて見ているこっちが「いよっ!一八!こんちにくいね!日本一!!」って観客席からヨイショしたくなります。


今日点数をつけるなら、
立川らく次 『初天神』(2.5) 立川らく八 『一目上がり』(2)  立川こらく 『二人旅』(1)  立川らく太 『高砂や』(2.7)  ベイビーズ(立川らくB立川志らべ)(2.3)  立川志らく 『ねずみ』(4.6)
でしょうか。
厳しいようですが、私の採点では真打総出で2ばっかり、なんて寄席もたまにはある位、開口一番の前座さんなどは2がつけられれば、最低限仕事を果たしてもらった、という感じなのでこんな所です。ただし、『初天神』は途中からだったので前半も聞いてればもっと高得点だったと思います。


こんな日に呟きたい落語の名フレーズといえば、やっぱこれじゃないですか、
「昔から言うじゃねえか、悪ぃあとは良いってね。」


あー、今日こそ早く寝たかったのに、やっぱり熱くなっちゃったぜ!ここんとこ3時間くらいしか寝てません・・。明日は『珍品堂2』と『志らく・白鳥』。指定席の「しらはく」はなんと・・・最前列、しかもこの数だとたぶんド真ん中。日本中で遅くとも5番目以内に早く買ったという事ですね。うふふ。