今日も生きてる

落語は一期一会、その愛は幾歳月を越えて。


先日、落語研究会に当日券で入るため、「こんなんで間に合うのかな」と不安に思いつつ、16時から並びに行くと、2番乗りで拍子抜け。1番乗りのおばあちゃんと3番乗りのおじいさんに挟まれて、開場まで2時間みっちり落語トークで盛り上がった。


おじいさんの方は過去の名人信奉派でややとっつきにくかったのだけど、おばあちゃんの方とは意気投合してしまい、すっかり仲良くなって席も連番してしまった。落語界の過去、そして未来について、たんまり面白い話をしたのでここに記さんとす。


このおばあちゃん、家元と同い年にして、小ゑん時代から今に至るまでずーーっと追っかけている熱烈な談志ファン。家元とはファンレターの往来もした事あるとか。好きな噺家さんと一緒に年をとって行く、年を経てずっと好きでいられる噺家さんがいるって素敵。いいなぁ、私もそんな落語ファン人生を送りたい。


おばあちゃんが音大の女子大生だった頃に一度だけ、大久保で若き日の小ゑんとすれ違い、「息が止まって、何も言えなかったわ・・今だったら声かけられるのにね」なんて甘酸っぱいエピソードも聞いちゃいました。おばあちゃんは、その時の事を今でも思い浮かべられるようで、遠い目をして、「ラッパズボンはいてて、細身で、格好よかった・・」と瞳が乙女なおばあちゃん。ああその気持ち、すっごい分かるー!ちなみに家元、やっぱりラッパズボンだったんだね・・。


立川流に関しても生き字引で、「今日は談春『ちゃん』が出てるから来たのよー」とか言っちゃいますよ、談春『ちゃん』てアータ!!
志らく師匠のことも、「志らくさんは若い時から才能あってねえ、談春ちゃんは志らくさんが先に真打になって、ほら、あの性格だもの、さぞ悔しかったでしょうね」とか・・こりゃあ、流石の談春ちゃんもかなわないなー。おばあちゃんは勿論en-taxiなんて雑誌を知らなかったので、「談春さんが連載してますよ」と教えてあげると、「へえーー探してみるわぁ!」と、とっても嬉しそう。かわいい。


小ゑんの高座映像があるという『昭和館』の事も教えておきました。国立劇場の近くだってのは知ってたから、時間によっては行こうかなとも思ってたけど、また今度。ちなみに、おばあちゃんの忘れられない一席は小ゑん『大工調べ』だって。うわー聞いてみたい。


おばあちゃんは「こんな若い人で談志さんのファンがいて、飛び上がるほどうれしい」と言っていたのだが、私は逆に「文楽だ、小さんだ、枝雀だ、っていう名人を聞いてきた貴方が、若手も聞いてくれていることが嬉しいよ」って思った。本当にこの人はよく聞いてて、何がすごいってお気に入りの若手に小権太さんとか二ツ目レベルが入ってくるのには驚いた。よく聞いてるねーっとこっちが感服。


堀井憲一郎氏の事もおばあちゃんは「堀井ちゃん」て言ってて、週間文春も読んでるらしく、この前ひいきの喬太郎さんが推されてて嬉しかったそうだ。おばあちゃんが最近一番感動したのは喬太郎さんの『花見の仇討ち』で、他の人の新作はなかなか受け付けられないけど、喬太郎さんのは好きなんだって。「喬太郎さんの演じる女子大生とかいいわよねえー」っておばあちゃん、何度もいうけど、本当によく聞いてるよ、この人!


隣の3番乗りさんが若手にやや否定的だったせいもあって、「名人、名人ていうけど、文楽が産まれた時から落語上手かったわけじゃないでしょう!」とオレ演説が始まった段もあった。


「おばあちゃんたちから、昭和の名人の話を聞くとうらやましく思うけど、でも、私は今の人達がきっとそうなってくれるって信じてるんですよ。今の中堅層、例えば協会だと、市馬さんとか扇遊さんとかもいれば、白鳥さんとか彦いちさんとか喬太郎さんみたいな人もいて、層が厚い。楽しみじゃないですか。名人の録音なんていつでも聴けるんですよ。今同じお金払うんだったら、私は生で聞ける人を聞いておきたいです。」と熱弁。


これにもおばあちゃんはガッツリついて来てくれて、「本当よねー、若手育てなきゃだめよ、だめ。小権太さんとか。」・・・って、おばあちゃん、本当に小権太さん好きだね。この日5、6回は名前が出たよ。ごめん、まだ小権太さん聞いてないんだ、今度絶対聞くからね!


「三太楼さん残念事件」の話題も出たので、
私「三太楼さんも間に合わなかったし、小権太さんもまだ聞いてないけど、あそこの一門では甚語楼さんが結構好きなんですよ。新真打の中では三三さんが人気ですけど、私は甚語楼さんが一番好きですね。」
おばあ「へぇー、聞いた事あったかしら・・」
私「あ、ちょうど今日出ますよ」
おばあ「あら、じゃあ楽しみにして聞いてみるわ」
という会話があって迎えた甚語楼さんの『夏どろ』。
高座終了後めくりが変わっている間におばあちゃんの感想を聞くと、「カンペキ!良かったわー」と好評でうれしかった。しかも「ああ、この人早稲田出身の人だわね。聞いた事あったわ」って、おばあちゃん、ホンット詳しいな!


おばあ「『七段目』とか、色んな声色が聞ける噺いいわよねえー」
私「ああ、いいですよねー音曲噺とか。」
おばあ・私、まったく同時に「「たい平さんとか・・」」
私「わ、おばあちゃんも!?『紙屑屋』聞いた事あります?!」
おばあ「あるわよー!」
私「あれ、いーーですよねぇ!!」
今年24歳の私と70歳のおばあちゃん、そんな二人が初対面で、「たい平さん!」ってハモれるんだよ。落語ってすごい!
この流れで喬太郎さんの『松竹梅』とか志らくさんの『包丁』とか談春さんの『棒鱈』とかも熱く語りました。


3番乗りさんは家元にも否定的なクチで、それに対するおばあちゃんの言葉が最高に名言でした。
おばあ「談志さんが四天王と呼ばれた時代は志ん朝師匠を筆頭に他にもずいぶん人気者がいたけど、本人が良くて、かつこれだけ素晴らしい弟子を育てたのは、談志さんだけよ。立派だわ。」
このひとは女神や・・!!おばあちゃん、いーーーーーーこと言った!
さらにその後、
私「柳家の本流も今に繋げているし、立川談志も育てたわけだし、やっぱり小さんは偉大ですね」という結論に。私の好きな人も気がつくと柳家系と立川流だ。彼らを育ててくれた小さん師匠に心から感謝。


この素敵なおばあちゃんは来月も来るのかしら。その前に大銀座落語祭の『若手十八番』でご一緒する予定。


まあ、そんなこんなをいっぱい喋って、落語界をこれからも精一杯見守っていきたい、という決意を新たにした一日でした。そう、いま間に合ってることはたくさんある。次の日ロクジュさんの日記を読んで、しみじみ共感。「いま間に合ってることはたくさんある。」素敵なフレーズだ。ことに立川流前座ファンとしては、これからの事を考えると気が遠くなります。10年経っても真打になってるか分からないんだもん・・。気長に見守り続けるしかないですね。でもあの人達の成長を見ていけるなら、やっぱりそれは、幸せな待ち時間。