今日も生きてる

扇辰日和(vol.22)

平成18年6月11日 於:なかの芸能小劇場

ーお番組ー
柳家小きち 『初天神
入船亭扇辰 『夢の酒』
<お仲入り>
三遊亭白鳥 『トキそば』
入船亭扇辰 『死神』


開口一番は柳家小きちさん。さん喬師の八番弟子だそうで、なるほど納得の『初天神』。師匠のを聞いた事があるので丸っきり被ってる所がすごくよく分かる。こういうのは本当に見かけが似てなくても顔がそっくりに見えてくるもので、特に飴をほおばる姿や、だんご蜜のすすり方を見ると、ああ、さん喬一門の血脈だぜ・・としみじみ感心。食べ物は柳家に食わせろ!っていう文句を今思いついた。そこまで大口叩けるほど他を見てるわけではないですが、形態模写の素晴らしさが印象に残ると決まって柳家な人達が多いです。


扇辰さんの『夢の酒』。初『夢の酒』。この噺、聞いてみたかったので扇辰さんで聞けてうれしいです。昨日の初花さんの『悋気の独楽』でも書きましたが、私は女の人が出て来て、惚れたはれた、妬く妬かないの大騒ぎをしたり、浮ついた男がばかばかしい体たらくを晒す噺が好きなので、とても楽しめました。

あとその前のマクラで初めて京都でお茶屋遊びをした話もしてて、扇辰師匠のお座敷隠し芸(?)や七色の声帯ぶりを舞妓さん役で堪能できました。扇辰師匠は本当に色んな声が出るので演じ分けがはっきりくっきりしてるのが好きです。三味線が出てくるシーンで「火付け盗賊改め長谷川平蔵が・・」の物まねまでしてくれた(笑)


白鳥の兄ィは場所が場所だけに出てくるだけでオカシイ・・!!先ほどの扇辰さんのマクラでは楽団と共演した話もあって、たまたまサン・サーンスの『動物の謝肉祭』の曲名として『白鳥』という言葉が出て来ただけでも客がクスクス笑うほど、違和感がネタになっていました。仲入り中にも後ろの席の人が「白鳥何やるんだろう・・『ここで』何やるんだろう」と連れの方と盛り上がっていたのが聞こえました。


何故か出囃子は『白鳥の湖』ではなく『野球券』。で登場した当人も、「これだけ一緒に仕事をしているのに、扇辰のゲストに出るのなんて初めてなんです。」あ、やっぱり?でも私はザ・古典落語の人と白鳥さんが絡んでるの、その違和感とほほえましい掛け合いが結構好きです。


4月革命の時とかも市馬さんと白鳥さんの掛け合い、とても楽しかった。市馬さんが「兄さんは本当に変わっているというか・・でもこれで、不思議と誰からも憎まれないお人です」とか言ったり、トリの白鳥さんが「柳亭市馬の完成された古典落語の後に私です」とか言ったりね。そういえばあの日も『トキそば』だったな。



さて、そんな<伝説さん>な白鳥師匠ですから、そばのマクラを振るだけで、フライング笑いする客続出!え、『アジアそば』?『トキそば』??と思ってると、店主の出身は佐渡、『トキそば』だー!!とくにさっき、仲入り中から白鳥さんが何やるかでソワソワしていた人が、「白鳥がここで『トキそば』をやる」という事だけでツボにはまってしまったらしく、ずっとフライング笑いしっぱなしだったのが可笑しかった。気持ちは分かるけど、落ち着いて!お客さん、と思った。


『トキそば』見るのは二回目だけど、やっぱり白鳥さんのハチャメチャっぷりには爆笑。普通のそば屋と客であるはずの『当たり屋編』でも、え、それどーいう食べ方?!そばかきまわしすぎ!とか、覗いてる男の覗き方描写も物凄ーーくヘン。たぶん、あれは白鳥さん的には狙ったくすぐりでも何でも無さそうなんだけど、仕草がいちいちヘンテコで可笑しい。


そして、「お客さんそばは今から打つんですよ・・」の下りでお客の「キターーーーー!」という空気をいっせいに浴びながら、白鳥兄貴の眼が不敵に光り、そば打ちシーンへ。しかも今回トリはネタ出しだったので、「扇辰がいい『死神』出来るようによぉーく練ります」とかも言っちゃう!どうでもいいけど座布団からホコリ出すぎです!
・・・白鳥の兄貴は今日も自由、自由すぎるほどに羽ばたいていたなぁと思ったよ。


扇辰さんが出て来て、「今私が袖で白鳥の兄さんとすれ違った時言われた言葉、耳を疑いましたよ・・『扇辰、今日はさらっと』ってどこがですか?!!!」
「あのね、黄色いヘルメットなんてね、渡された時に分かりそうなもんですよね・・しかも何ですか、『江戸っ子は味が肥えてる』って、舌でしょう・・!」これ、確かに言ってたんだけど、白鳥さん見てる時は呑まれてて扇辰さんに突っ込まれるまで分からなかった!


時間も押してたので、扇辰さん、ほとんどマクラなしで『死神』へ。あーーーーこれに関しては、うーーーん、根本的にもっと怖くて重くておどろおどろしい『死神』が好きなので、サゲの演出が好みじゃなかった。ちょっと私の期待する『死神』より軽い。この話はこういう演出の方が好き、というのは好みもあるので、けして悪くはなかったのだけど、毒がまだまだ物足りない、と思ってしまった。