今日も生きてる

葵落語会(第166回)〜噺の感想編〜

平成18年5月12日 於:石神井公園・葵寿司

立川らくB 『大安売り』
立川志雲 『日和違い』
<お仲入り> 
立川志らく 『文七元結


志らくショックからいまだ冷めやらず、好き過ぎてこの気持ちをどう表現していいやら・・で感想が遅れました(他のも数十席分書いてないけど!)(それ書く気あるの・・?わたし・・)。


〜打ち上げレポート編〜はこちら↓
http://d.hatena.ne.jp/stilllife/20060513/1147451583


らくBさんは相変わらずソツがなくてお上手。いい感じにあったまるナイス前座プレイ(プレイというかアシストというか)。でも前回の一門会でやった新作、『わくわく歌謡ショー』のインパクトが残っているので、古典でももっとはっちゃけて魅せ場をつくってほしいかなー。今後どこかで大化けする日がくるのを予感させる、切っ先きらめくものを持っている気もする。負け方の説明がテンポよく続いて盛り上がってたのに、サゲをせわしなく流しちゃったのが勿体ない。


・志雲さん。フラッシュ撮影をしたお客がいたのでマクラで話のリズムを崩さないままにさらーっと注意。やんわり釘を指すのがうまくて粋だねえ。録音・撮影厳禁の常識がないなんて、そんなお客さんもいるんだーという妙な感嘆を覚えた。


噺に勢いがつき始めた、というか私の食指が動き始めたのは、何といっても主人公の米俵まき!
雨風をしのぐため米屋の軒下に入り、いけしゃあしゃあと米屋の旦那から雨具をせびる主人公。雨具はやれないかわりにこれならと、雨合羽がわりに貰ったのは米俵とさんだらぼっち*1
それ以降のシーン、志雲さん扮する大の男、ガニ股でズカズカ歩いてそうなヒゲヅラに強面の江戸っ子が、俵にくるまってワラの蓋をかぶってのしのし市中を歩いている姿を想像するともうクスクス笑いが止まらない。こんな風にお客の想像力を引き出して笑わせるって本当に落語の妙だよね!


しかもこの後すぐに天気はよくなり、今度男に降ってくるのは奇異の視線の雨あられ。「俵の雨にでも降られたのか」とつっこまれる始末。ここで私の脳内をかけめぐるのは、志雲さんにすぽっとはまる俵の雨、ああ、おかしいいいいい。


この後は男が町内の色んな人に天気を聞きにいって、『天災』や『洒落小町』みたいにダジャレ・ききまつがいボケの応酬に会うという展開。外したものもあったが、それはそれで志雲さん、受けが悪いと「ちょっと無理があったかな」「夕べ一人でいるときふと思いついたようなネタだな」というフォローで笑いをとる。


ネタ数が多いとリズムさえ崩さなければ下らなくても結構笑っちゃうよねこういうの。「降水確率」→「資生堂の香水タクティクス」が受けていたが、私のお気に入りはバイク乗りさんに聞いて、「晴れですか?」→「ハーレーじゃないよ〜。ホンダのスーパーカブ」「いくら何でもハーレーとスーパーカブは間違えへんわ!」
サゲもその延長でダジャレで落とす。結構盛り上がってたのに、最後のダジャレがいまいちでこれまたちょっと惜しい感じ。


・そして最後、志らくさんで『文七元結』、長講50分を聴けたこの歓びをどう言葉にすればいいのかと・・!!もう聴き終わったとき心から「志らくたっぷりサイコー!!お腹いっぱい!」って思ったよ。しかも普通のお座敷で最前列ですから。距離的には広小路亭の最前列の方が近いと思うのだけど、高座が高くない分、距離感はこちらの方が近く感じた。なにこの贅沢、大迫力。志らくハイビジョン!


マクラで江戸っ子と吉原の話。志らくさんのお爺さまはいっぺんの曇りもないような江戸っ子の鍼灸師で、お婆さまは芸者*2、芸者のお旦が横暴な人で、見かねたお爺さまがお婆さまをかっさらい、出来た子供が志らくさんの親御さんなので(お父様かお母様かは失念)、「一応江戸っ子と芸者の血が流れてるんです」。ある意味サラブレッドなのか。なんだかこの前聞いた『お藤松五郎』を彷彿。


志らくさんの中には江戸っ子が一揃い住んでていて、その人達それぞれがちゃんと生きて動いてる。志らくさんの高座を思い返すと、座ってる志らくさんじゃなくて、立って歩いてる長兵衛さんやら、屏風の影からこちらを覗いてるお上さんとか、自分が想像した映像の方を思い出す。この現象の快楽を味わってしまうと、志らく落語やめられません。


そして、今日も出た!志らくさんの「あう!」。正確には「おう!」と「あう!」の間みたいな、「江戸っ子が鼻こする時出す声」。これは聞いたことのある人にしか伝えられないんだけど!ほんとうにこれは志らくさんのワン・アンド・オンリーでたまらん!!出てくるだけで楽しい。こんな人絶対いないというデフォルメ、なのに魅力的。ご本人は、この「あう!」がなんでウケるんだ?と面食らったらしい。むしろ、狙ってなかったんだ!と思った。あれは絶対可笑しいよ・・!


志らくさんで人情噺を聞くのは初めて。親子の再会ではしっかり鳥肌が立ったけど、やっぱり最後は妙ちくりんな長兵衛ファミリーの描写で笑わせて締める、そんなとこがまた志らくさんらしくてイイ。たとえ『文七元結』だろうと、いかにも感動!お涙頂戴!で終わるはずはない、絶対ヒトワライ最後にやってくれると思ってました。
ああ、もう、本当、志らく落語に完敗した夜。


打ち上げ編でも書いたけど、「本当は『愛宕山』をやろうと思ってた所、この前『下丸子』で『愛宕山』をやった時のお客さんを見つけたので急遽『文七元結』にした」という話から、「じつはもう○回目で」「私は○○の会でも聞きました」などという話になり、ワレワレ重度志らくリピーターの存在を感知されてしまった。
ちなみに、私は「あなた、どっかで見たと思ったら・・・ああ!そうだ!一門会にいたでしょう!」と言われ、照れました。一門会にも、下丸子にも、志らく百席にもいたともよ。


ワレワレの間では「志らく師匠は近眼で客席がほとんど見えてないので、追っかけとしては顔憶えられなくて気が楽」という通説があったのだけど、下丸子と一門会の時は、メガネしてる状態で袖から客席も見てるらしいのだよ・・!


そこで恐れながら思うのだけど、5月23日のみなと毎月落語会でのネタ出し『文七元結』、志らくさんの「え、そんなに何度も同じ噺を聞かれてるのか・・!?」という反応を見るにつけ、きっとこの噺が久しぶりじゃないアイツラも来てるに違いない!ということを前提に、燃えてくれる事を期待してもいーですか!
だって志らくさん、アウェーな会で笑わない客を吹き出させて「勝ったと思った」みたいな狩猟民族エピソードがいっぱいあるから、そういう所はギラギラしてくれる気がするよ

*1:俵の両サイドの部分にあてる、丸いわら製のふた

*2:花魁と芸者という言葉を混同誤用したのでさっき訂正。ごっちゃになってたー!教えてくれた人ありがとー!申し訳ない!