今日も生きてる

立川談志独演会

平成18年4月22日 於:有楽町・よみうりホール


ー番組ー

立川藤志楼 前説
立川談志 『紙入れ』
<仲入り>
立川談志 『へっつい幽霊』


・入場早々、うわーー。物販売ってるメンバーがフラ談次・志らべ・らく次・志ら乃さんで、フラ談次さん以外、昨日の二ツ目競演会で見てる/見られてる人々。視線がすれ違ってすぐ目をそらし合う微妙な逆流アイコンタクト。


連日は気恥ずかしス。立川流ストーカーぎみだけど、落語が好きなだけで、けして怪しいものではないっす。引かないで、引かないで・・。他も追っかけてるから、ここだけじゃないよ。ほら、痛くない。ほら痛くない・・。


飛び入り売り子の志ら乃さん「ただいま立川談春のCD発売中です。今ならサイン付き、サイン付きですよ」

同じ文句を数回繰り返した後、
志ら乃さん「ただいま立川談春のCD発売中です。今なら、らく次のサイン付きです」
らく次さん「って、違うだろ!」
ちょっと、そんなとこでいきなり漫才しないで!一人で「ブッ」って吹き出しちゃったよ。


・前座による開口一番はなしで、高田文夫こと立川藤志楼登場。
「末廣のトリがやっと終わって、今日はお客としてゆっくり出来ると思ったら、また高座ですよ。さっき会場に着いて、すぐ舞台に立たせられました」「あ、みなさん、すごいニュースがあります。今日記者会見やっててね。これ明日の朝刊に載りますよ。円楽引退します!」「うーん、じゃあなんか一席やりますかね・・(袖からお呼びがかかり)あ、もう家元の用意出来たそうです。それではお楽しみください。」


・家元登場。マクラ、小咄など、この前と割合同じような感じで結構な間喋ってくれる。憶えてることなど。


「おなじみの落語っていうけど、談志はこれが出来ないんだね。だからいつも、失敗するかもしれないっていう、怖さがある」「よく受ける一席があっても、何度もやると俺が飽きちゃうんだ」「今この年で新しい噺をやるなんて、大変なんだよ。大変なんだけども、性分なんだろうねえ」


「円楽みたいに、フワーッと来ちゃって、止め時が分かればいいんだけど、そういうわけでもない。精神が肉体をひっぱりあげて、なんとかやっている」「一日中扇子見て生きていけるんだったら、こんなに楽なことないですよ」「やっぱり生きがいっていうんですか、うん、必要なんだろうね」「死んだ方が楽だ、なんてのも本気で思うんだけど、そうかといって死ぬのはやっぱり怖いしね」


「いま睡眠や生活のリズムがぐちゃぐちゃになってて、睡眠薬飲んで酒飲んで、寝て、でも4時間くらいしたら起きちゃって、また昼時から酒飲んじゃうんだ。だから正直いま、眠い。話してるうちに眠気も醒めるかなあと思ったけど、これがどうも、やっぱり醒めない。」


超面白かったのはおしっこの話(下ネタ失敬、笑)
「紙入れをやるけども。男なんてものはなにかってえと浮気するようでね。談志は全然興味ないんだけど。そんなのより我慢してた後におしっこする方が気持ちいいよ・・(場内爆笑!!)。そこの客席に座ってる陳平なんて、病気(膀胱炎かなんか)でおしっこがずっと出なかった後出たら、三日飛び回って喜んだっていうんじゃないか。」


「もしおしっこが一ヶ月に一遍しか出なかったら、その日を満喫する為に料亭なんて予約しちゃってさ、飲めや歌えやで盛り上がった後念願のおしっこして、『女将、今月もいいおしっこが出来た』『毎度7万5千円になります。来月もよろしゅう』に」なんて、おしっこするのに7万5千円払っちゃうよ。それで『お客様、今月もお越しをみなお待ちしてましたのにどうしたんですか』『すまねえ女将、昨日寝しょんべんしちまった。寝てる間に出ちゃうなんて、あー勿体ない』なんてな。」


そして、「紙入れ」。正直に言おう。私も眠かった。二階席とはいえ、談志を前に船を漕ぎました。でも師匠本人も寝そうになりながらなんだからこれは怒れない。仲入り後、じっさい前の方で上向いて爆睡してる人を差して家元も「気持ち良さそうだな」と笑っていた。


「へっつい幽霊」では家元も起きてきて楽しく聞けた。しかし席を終えた後のトークで、「今日は、噺やってて、正直本当にきつかった」とこぼしていた。この前の談志一門会と比べても覇気を感じられなかったので、本当に具合が悪かったのだろう。うーん。


世の中には、孤独や生き辛さを代償として鋭い感性を持つ人がいる。才能の産物を受けとる側はありがたいけれど、当人の事を考えるとうらはらに胸は痛む。ことに張り合った同世代、自分が目指した名人がほとんどいなくなった今、家元も哀感を禁じ得ないのではないか。「このまえ(末廣で)寄席に出てみたけど、こんなもんだったかなあと思った。もう昔みたいな名人がいなくて、変わっちゃったよ」と言っていた。


最後の幕が閉まる時、家元はいつも照れておどける。噺の中の女役もかわいいのだけど、この幕が閉まる時の家元がまた愛らしくてたまらない。その表情を見ただけでも、今日来て良かったなと思えるくらいだ。