今日も生きてる

志らく一門会

平成18年4月16日 於:お江戸上野広小路亭

一行で感想をつければ、
志らく一門会がこんなに面白いものだったとは!」
です。
期待以上にとっても楽しかったわ。

立川志ら乃 オープニングトーク
チャレンジコーナー
 「師匠からの宿題!?」
立川らく太 『三人旅』
立川らく次 『宮戸川
立川こらく 『道灌』
立川志らくによる講評&採点ー
<仲入り>
立川らくB 『わくわく歌謡ショウ』
立川らく八・志らべ 漫才
立川志らく 『猫久』


・ゆうゆう到着、最前列に座る。今回からは前座さんたちが高座に上がる機会を増やすため、二ツ目さんたちは噺をしない。志ららさんが来ていたら上石神井からハシゴしてるのを視認されてちょっと恥ずかしいなと思っていたが、出て来たのは志ら乃さん。「二ツ目なのに、前座の前説」という言いようが可笑しかった。いずみさんがピンポイント爆撃されてたのも局所的な分バカウケしてしまった*1


志らく師匠の教え「落語家は書けなければ失格」ということの訓練なのか、出演者それぞれがここ一ヶ月の事を綴った読み物がプログラムについている。とくに「MONTHLYラクジ」のレベル高過ぎ。
2006年3月にあったらく次さんの出来事を、カレンダー状に区切られた16コマの中、イラスト・写真・文章で解説。立川流の他の方々のエピソードが似顔絵つきであり、立川流ファンとしてもたまらない一品。本当に毎月読みたいし、同人誌とかあったらマジで買いたいと思った。


・アジアで唯一の「立川志ら乃専門誌」『月刊現代しらのん』も、A4両面刷りで写真+文章の新聞仕立て、という物凄い力の入れよう。今月は現在志ら乃さんが夢中になっている圧力鍋の「こなべちゃん」特集。しかも「こなべちゃん」との蜜月には衝撃のオチが。笑った。


・さて、前座さんのチャレンジコーナー。詳細はこれ以上ないというくらいにいずみさんとこに書いてあるので、私なりの主観をなんとかひねり出すよ。まあ個人的には、内容被ってても、同じ日、同じ体験をしてる人のレポート読むのって、私は結構すきだけど、あんまりオウム返しなのも格好悪いからさ。

最初にも書いたけど、この志らく一門会、予想以上に楽しくて、それは何が面白かったって、志らく師匠の講評タイムでした。笑う方の面白いだけじゃなくて、「興味深くて」すっごく面白かった。

普段落語を聞きながら、何か物足りないと思っても何が悪いのかはそう的確にいえるものではない。でも志らくさんが今さっき聞いた落語を、「ここはもっとこうすれば」とか良い例を実演しながら批評してくれると、本当に「なるほど!」と思うことばかり。


また、「このシーンでお客さんはこう思ったんじゃないか」と志らく師がいえば、実際に私もそう思ったことばかりなのだ。「志らく師匠!」と思わず呼びたいくらい、観客としても弟子になったような気分で「ああそっか、そこをそうすればいいのか!」と聞き入ってしまう。実に面白いお勉強のお時間だったのだ。


・『三人旅』、師匠の五段階評価は3。らく太さんの課題は「動きの改善」と「江戸っ子」の三人と「田舎者のおじさん、さらになまりの強いおじいさん」の演じ分け。これを志らくさんがやると見事にはっきり演じ分けられていて、一節しかやらないのに、口調のギャップだけで可笑しい。本当にさすがとしか言いようがない。こと「演じ分け」に関していえば、今まで聞いて来た噺家さんの中で、この人がダントツに巧いかもしれない。


・『宮戸川』、師匠の五段階評価は4。らく次さんの課題は「色気のある噺を出来るようになる」。しかしらく次さんは最後をそそそそーと逃げるように終わらせてしまい、師匠に「聞いていたお客は、前半あんなに面白かったのに、最後あんなに慌ててすぐ終わっちゃったと思ったよ」と言われてしまう。らく次さんは家で稽古をしてる時その部分を自分で聞いて、「どうしても恥ずかしくなってしまい、こんなものお客さんに聞かせられないと思ってしまったんです」とのこと。


同日昼の志ららさんの一席に続く、『宮戸川』祭り二席目である。志ららさんのは「情報量が多い割に、早すぎて聞き取りにくかった」と書いたけれど、それは、より丁寧な上に無駄がなくて分かり易かったらく次さんの描写と比べて思った事だ。


志らく師匠に「色気が足りない」と言われた芸風も、逆に言えばこの噺の場合、女が苦手で、真面目で、どん臭い、という半七の人物像が際立って、とても好感が持てた。そして師匠も「前半あんなに面白かった」と言ってたように、半七とお花の掛け合い、ジジババの掛け合い、半七とおじさんの掛け合い、それぞれかなり面白かった。


もちろん艶噺克服の問題では駄目だったわけだし、確かにあの最後じゃ噺は終われないけども、この噺を以て私の中でらく次さんがブレイクしたので(またそれか)、高評価。若い人のを聞くときは特に、全体としてはアラがあったとしても、一人愛せるキャラクターがいるとか、こう、一筋突出した輝きがあれば、結構応援したくなってしまうものです。


・『小町』〜『道灌』こらくさん。志らく師匠の五段階評価はといえば、「ぎりーぎりーーで3弱。いや、でも前はオール1だったから、こらくも成長すると思ったよ。」ちなみに、わたくし『小町』を聞くのも、前日15日の談志一門会で平林さんの一席と被って連日でした。そこでトリの談志師匠は『庖丁』をやり、さらに14日東京落語会で志らく師匠は家元、円生師匠の物まねを交えつつ『庖丁』を演っていたっていうのだから、キミらは、ナニか、双子みたいなシンクロニシティがあるんですかね、一門で(笑)


らくBさんの新作落語、『わくわく歌謡ショウ』。これ、すーっごい笑ったわー!司会仕事をしに行った前座さんがとんでもないトラブルだらけの歌謡ショウに翻弄されるという、実生活を芸の肥やしにしたお噺。何度か繰り返される例のブツ注射シーンが特におかしい。ただ本編が濃厚なだけに、最後のサゲはいかにもあっさりしてて惜しい感じかな。


マクラからして、「元兄弟子フラ談次がそのスジの人達の結婚式司会をしたが、緊張してトチりまくり損害賠償を請求され、分割で支払っている」とか(ほんとかよ、笑)。「そんな苦労をしてでもですね、われわれ元ブラック門下の前座たちは文字通り地を這って生きていかなければいけないんです」というセリフに爆笑。


あんまり面白くてよく出来てたので、ボカァ終演後のファミレスで連れの人相手に、「元ブラック門下の人達さーあ、事情が事情でまだ前座なだけで、そのへんの(どのへんかはヒミツ)の二ツ目なんかよりずっと実力あって、勿体ないよねえ」と思わずクダをまきました。


・らく八&志らべの漫才、噺家を志した息子が反対するお父さんを説得しようとする話。息子役の志らべさんの一言、「僕、唄も踊りもがんばって二ツ目になるよ!」には立川流に志望するのかよ、という笑い。立川流前座のリアルな叫びか(笑)


・そして真打登場!志らく師匠の落語も初聞きです。連れの人に「初めて聞いた志らくさんの落語が『猫久』ってすごいね」と言われる。どういう意味かといえば、面白いけど分かりにくいから、と。
たしかに。分かりにくいかもしれない。でも超高密度で超高速なのに、キレがあるから見失わないし、目を離せない迫力がある。特に猫久さんが家に帰ってきて刀を持っていくシーンなんて極上。むちゃくちゃ鮮やかで格好いい。


あーなんかこの感覚、何かに似てる。今まで見て来た映画とか絵画とかで近いものがある気がする。モノフォニーなのにポリフォニー。あんな短調ではないけども、映画『Shine』で主人公がイギリス王立音楽院のコンクールでラフマニノフのピアノ協奏曲3番を弾いてるシーンとか思い出した。超絶技巧、幾つもの和音、幾つものメロディーが同時進行で、しかも超高速のテンポでめくるめく世界だ。
または実験的で不規則な旋律のジャズとかかな。
すげえ、すごいよ師匠。
お手本つきの総評を聞いて感嘆し、じっさい本人の落語を聞いて感嘆し、今日一日ですっかりヴァーチャル弟子気分なのだった。

*1:いずみさんが以前日記に書いた志ら乃さんへのツッコミをトークに引用されていた